「分離脳」の嘘を暴く
最近では、有名な心理学の論文の多くに
再現性がないことが問題となり
学界全体をあげての対策が行われていると言います
https://note.com/s1000s/n/na0dbd2e8632d
心理学・行動経済学等の著名な研究論文が次々に追試失敗【心理学】
細かくみると、再現性がないものから
再現はできたが元論文ほどの効果がないもの
元論文における説明の妥当性に疑問符がつくものなどがあるようです
かの有名な「スタンフォード監獄実験」は、やらせ疑惑さえ出ています
( スタンフォード大学で行われた心理学実験
ふつうの人も看守役・囚人役に選ばれると
看守・囚人らしく振る舞うようになる )
この他、表情を作ると、表情に対応した感情が生起するという
「表情フィードバック仮説」(効果は小さい)
マシュマロのつまみ食いを我慢できる子供は
高い学力を身につけ、社会的に成功したという
「マシュマロ実験」(効果は限定的)
宣誓という行為が人を正直にするという『宣誓効果』
(データの捏造が指摘。捏造論文の共著者の一人
ダン・アリエリー氏は世界的に有名な学者)
才能(知能)よりも努力を誉めたほうがやる気が出る
『グロース・マインドセット理論』(再現性ほぼなし)
「女は数学が苦手」とか「黒人は白人より学力が低い」などの
ステレオタイプ(先入観)を意識させると
実際に試験の点数が下がる『ステレオタイプ脅威』(再現性ほぼなし)
教師の期待によって生徒の成績が向上する
『ピグマリオン効果』(効果は小さい) などがそうだとされます
【 ちなみに
「人形」を愛したり、女性を人形のように扱い
自分の理想どおりの振舞いを求める性癖を
「ピグマリオン・コンプレックス」と言います
ギリシア神話に登場するキュプロスの王 ピグマリオンと
類型の心理状態だといいます
ピグマリオンは、現実の女性に失望し
愛と美の女神 アプロディテをモチーフにして
自ら理想の女性 ガラテイアを彫り上げた
像を見ているうちに、ガラテイアが服を着ていないことに
「恥ずかしく感じていないか」と思い始め、服を彫る
さらにガラテイアのために食事を用意したり
話しかけたりするようになり
その彫像から離れなくなり次第に衰弱していった
その姿を見かねた愛の女神 アプロディテが
彼の願いを容れて彫像に生命を与えて人間とした
ピグマリオンは彼女を妻とした
逆に、男性に人形みたいに扱われたいという女性の
「ガラテイア願望」もコンプレックスの一種
なお、ピグマリオンが毎日
彫像のガラテイアを見つめて人間になることを願い
ついに それが叶ったように
教師の期待によって学習者の成績が向上することを
「ピグマリオン効果」別名、「教師期待効果」と言います
「ピグマリオン効果」とは反対に
周囲の期待が低いと、周囲の期待通りに
パフォーマンスが低下してしまうことを
「ゴーレム効果」と言います
(ゴーレムはユダヤ教の伝承で
神が大地からアダムを生み出す前の胎児。自分で動く泥人形) 】
リンクを貼ったサイトには
心理学の研究は、経済学、法学、倫理学、哲学
社会学、教育学、いろんな分野の研究者が
援用(自分の主張の助けに)するので
心理学研究に間違えが多いと
色々と読んで勉強している人ほどデタラメになり
根絶しがたい疑似科学を広めることになる
ということも書かれています
「データは嘘をつかないが、嘘をつく人はデータを使う」
という名言がありますが
心理学というのは
基本、データを根拠に「あーだからこう」みたいな話が多いでしょ
なので、正しいものもある一方
デタラメのものも多くあるのは、あたりまえです
それに個人的には、 心理学にせよ、脳科学にせよ
本質や概念に関わる重要な理論でなければ
正しかろうが間違えていようが興味の対象ではないので
どうでもいいのです
しかし、≪感情≫とはなにか?
≪価値≫とはなにか? という
レベルにおいて間違えている「ABC理論」
≪自由意志はない≫という
デタラメな主張の根拠となっている「リベット実験」
こういったものは、見逃せません
そうした重要な理論の一つに『分離脳』があります
これは、本来「自己」を考える上で、重要な研究なのですが
この『分離脳』も近年、再現性が疑われています
『分離脳』とはどういうものか
分かりやすいYouTubeの動画のリンクを貼っておきます
アリストテレスさんの
https://www.youtube.com/watch?v=TIKxnqsuUH4&t=241s
【意識】脳を半分に切ると人格は2つになる?~分離脳~ | 脳科学
るーいのゆっくり科学さんの
https://www.youtube.com/watch?v=Sb7rtvfDBtE&t=314s
【ゆっくり解説】
右脳と左脳を切断することにより起こる不可思議な現象-分離脳-
治すことの難しい「難治性てんかん」
(てんかんは、脳内で異常な神経活動が発生し、発作が起こる疾患)
の治療として
異常な神経活動(てんかん性の興奮)が脳全体に広がらないように
左右の脳をつなぐ「脳梁」(のうりょう)を切断する
という手術があります
|
転 写 |
この手術によって分離された脳を「分離脳」と言います
幻想や妄想、自己破壊、暴力などの症状を抑えるため
頭蓋骨に穴をあけ、前頭葉の一部を切除する「ロボトミー」は
のちに、人を廃人にする「悪魔の手術」とされましたが
(考案者のポルトガル医師はノーベル賞受賞)
分離脳手術は行っても
患者の多くは、手術前と手術後の違いを自覚することがないし
てんかんの発作もちゃんと治まるそうです
また、問題がある患者でも
通常、時間の経過とともに、動作を1つにまとめられるようです
Nature ダイジェスト
「分離脳」が教えてくれたこと というサイトには
脳外科手術を受けた後の数か月間、スーパーマーケットで
「欲しい物に右手を伸ばそうとすると
そこに左手が割り込んできて両手が争う形になった」
「着替えるのも同様で、自分が着たいと思う服を
両手が実際に着せてくれなかった」
しかし、手術後約1年で問題は軽減し
「動作を1つにまとめられるようになった」
という1979年に手術をした女性の話がみられます
分離脳手術(脳梁離断術))は
1940年代からなされていたようです
そんな手術、今でもなされているのですか?
と疑問が湧きますよね
てんかん情報センター
https://shizuokamind.hosp.go.jp/epilepsy-info/news/n5-4/
によると
【 脳梁離断術には、脳梁の全長を離断する全離断と
前半2/3離断があり、発作に対する成績は
全離断のほうが良いとされています
しかし10歳以上の患者さんで全離断を行った場合
左右の半球間での情報のやり取りができなくなることによる
特殊な機能障害(右手でドアを開けようとして
左手で逆に閉めようとするなど)が生じることがあります
したがって10歳以上の患者さんでは
まず前半2/3離断を行い
効果が不十分なときには残りの後ろ1/3の離断を行います 】
とあり、今もなされていることが分かります
今では、左脳が、言語や論理を司り
右脳が、イメージや創造を司るというように
左右の脳で働きに違いがあることは、常識になっています
【 他には
左脳は、計算する能力や、時間の観念なんかをもち
右脳は、感覚的な能力、また直感やひらめきにたけ
芸術や音楽の認識に関する能力をもつと言います
また、左脳は“直列処理”、右脳は“並列処理”と言われています
右脳は、並列情報の倉庫ようなものらしく
1週間前に食べたおいしいチーズケーキや
今日、見た美女のイメージなどが
カテゴリーは関係なくバラバラに、所狭しと並んでいるといいます
一方で左脳では、グループやカテゴリーごとにまとめられているといいます
左脳は、認知のフィルターで、重要な情報だけを
意識に上げることで、脳の働きを効率化しているとされます 】
しかし、 分離脳手術は行っても
患者の多くは、手術前と手術後の違いを自覚することがないことからも
かつては「左右の脳で機能に違いがない」と考えられていたそうです
この常識を覆したのが、アメリカの心理学者
ロジャー・スペリー(1913~94)や
マイケル・S・ガザニガ(1939~)の研究で
スペリーは、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています
|
|
|
ロジャー・スペリー |
|
マイケル・S・ガザニガ |
それと、脳梗塞で、左側の脳が障害されると、右半身にマヒが起こり
右側の脳が障害されると、左半身にマヒが起こるように
左脳が右半身につながり、右脳が左半身につながっている
ことも周知の事実です
同様に、視覚も
右視野の情報は、左脳へ
左視野の情報は、右脳へと入ることが分かっています
図は、見えるってすごい!視覚の仕組み
http://eyeeye.vision/2016/03/04/post-2235/ より
目の神経は半分だけ交差している「半交差」です
つまり、スクリーンとなる網膜の左半分が左脳へ
右半分が右脳へとつながっています
いずれにせよ
右側の視野(a)が、左脳に
左側の視野(林檎)が、右脳に入ります
なお、視野とは、≪眼を動かさずに見ることができる範囲≫をいいます
ちなみに、 人間の眼の水晶体は凸レンズですから
網膜(スクリーン)に映る像は
実際には倒立像(さかさまの像)なのです
だから上の図の網膜では、林檎とaは、さかさまなのです
脳がその情報を受けて
正立(せいりつ)像へ変換しているのです
ガザニガは、以下のような実験結果が得られた
と主張しています
分離脳患者の
① 右視野に、林檎を置く
すると、情報は、左脳へ行く
「なにが見えましたか?」と聞くと
左脳は、言語(言葉や会話)を司っているから
「林檎が見えます」と答えることができる
② 左視野に、林檎を置く
すると、情報は、右脳へ行く
「なにが見えますか?」と聞くと
言語能力はもたないので
「なにも見えません」と答える
( 右脳は、空間や図形を認知し
イメージを組み立てる機能をもつ )
図は、Nature ダイジェスト 「分離脳」が教えてくれたこと より
②の場合、左視野に、林檎を置くので
情報は、右脳へ行きます
右脳は、林檎が見えていないわけではありません
脳が分離されているので
右脳の情報が、左脳へと行くことがないのです
ここで、のちに解説する
トリックに関わってくる重要な点を書いておきます
「なにが見えますか?」と聞かれて
「なにも見えません」と答えるのは
右脳の情報が、左脳へと行くことがない =
左脳に、情報がない からです
質問者と会話できるのは、左脳だけなので
左脳に、情報がないと
患者(左脳)は、「なにも見えません」と答えるのです
≪質問者と会話できるのは、左脳だけ≫
これ、とくに重要です
なお、≪右脳は、林檎が見えていないわけではない≫
これは、つぎの②の応用実験から明らかです
②の応用実験です
左視野に、林檎を置く
情報は、右脳へ行く
質問者: 「なにが見えますか?」と聞くと
左脳: 「なにも見えません」と答える
ところが
質問者: 「今、見ているものを、左手でつかんでください」
と指示すると
患者(右脳)は、ちゃんと林檎をつかむことができる
すごく不思議な話に聞こえますよね
「なにも見えません」なのに
ちゃんと林檎をつかむことができるわけですから・・・
図は、Nature ダイジェスト 「分離脳」が教えてくれたこと より
なぜ、なにも見えていないのに
林檎をつかむことができるのでしょうか?
前述したとおり
「なにも見えません」は、左脳です
右脳は、何を見たかを答えられないだけで
林檎が見えているわけですから
「今、見ているものを、つかんでください」
という指示を実行できたのです
なお、ガザニガは、右脳は
意識レベルにおいては「見えない」が
無意識レベルでは見えていて
分離脳患者は、無意識レベルにおける認識を
絵に描くことができるといったような実験結果を示していますが
これはのちに述べます
つぎに①の応用実験になります
右視野に、林檎を置く
情報は、左脳へ行く
質問者: 「なにが見えますか?」と聞くと
左脳: 「林檎が見えます」と答える
質問者: 「今、見ているものを、左手でつかんでください」
と指示をしても
患者(左脳)は、林檎をつかむことができない
これは、左脳は、右半身をコントロールしていて
左半身は、コントロールしていないので
左手で林檎をつかむことはできないのです
以上の実験結果により
左脳と右脳が独立している事実が分かるわけですが
それにより
左脳と左脳に、それぞれ 心(意識)・人格・自己が存在している
≪二人の私がいる≫とか
左脳が、意識を決定づけているとして
≪ホントの私は左脳である≫とか いった主張がなされています
但し、「意識」は、脳全体のネットワーク機構より生じている
という考えが主流のようです
要するに、脳全体のネットワーク機構より
1つの意識(人格)に統合され、現れているということです
ここで注意すべきは
脳梁を断ち切った ≠ 視交差を断ち切った
ということです
図は、MSDマニュアル 視覚路をたどる より
左目で見た映像と、右目で見た映像を
脳で統合した映像が、両眼視野に置かれた物体です
分離脳患者であっても
視交差が断ち切られたわけではないので
ふつうの人と同じに、左の視野の情報は右脳に入り
右の視野の情報は左脳に入ります
ふつうの人の場合は
上の図のように別々の情報が、1つに統合されます
我々は、この統合された情報(認識)に対し、価値を判断します
そして価値判断の結果が「感情」という意識です
ここでも注意すべき点があります
『分離脳』で語られている≪意識≫というのは
事物に対する【認識】にすぎないということです
価値とは、評価の概念に対し
認識は、真理(これは〇〇である)の概念です
ちなみに、我々の情報の83%は視覚から得ている
と言われています
( 視覚:87%、聴覚:7%、触覚:3%、嗅覚:2%、味覚:1% )
話を戻すと
脳梁でつながれていない分離脳患者においては
左右の脳で、情報が共有されることがない →
意識(認識)が統合されない はずです
なので、分離脳患者には
2つの意識が存在すると考える「二重モデル」があるのです
ところが、 ≪ 分離脳手術は行っても
患者の多くは、手術前と手術後の違いを自覚することがない≫
≪また、問題がある患者でも
通常、時間の経過とともに、動作を1つにまとめられる≫
こうした事実から
意識は1つに統合されていることが言えます
分離脳患者だからといって
A子さんを見て、右脳は「美人だな」と認識し
左脳は「ブスだな」と認識するなどということはないのです
ちなみに「美しい」「醜い」は
基本、知覚ですが、価値としての言葉としても使われています
ここでは、知覚であることを前提として語っています
この知覚(認識)に対し、「心地よい」と感じたり
「心地よくない」と感じるのが、価値 = 感情 です
再び話を戻しましょう
いずれにしても分離脳患者においても
意識が統合されているという事実があるわけです
なので、「二重モデル」を認めた上で
左右の脳が、出来事という資源に対し
そのつど注意を競い、奪い合い、勝利した方の意識経験が
意識の基盤となり、単一の意識の流れを形成する
という「スイッチモデル」なんかもあるようです
ただ、単一の意識になる前の意識
って無意識じゃないの? と反論したくなりますよね・・・・
ガザニガのこんな動画をみつけました
|
|